土 18 9月 2010
Posted by IFHD理事長 藤村 博之 under 藤村博之のエッセイ
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USR活動に取り組むこと
労働組合は社会的に意味のある活動をする団体だからこそ、法律で活動が保護されている。もし、社会全体にとってプラスになるような活動をしないのならば、法律上の保護規定がなくなる可能性がある。労働組合には、社会的な責任が課せられているのである。
では、何が労働組合の社会的責任だろうか。私は、日本を住みやすい社会にするために活動することだと考える。具体的には、1.政治の場に働く者の声を反映さ せること、2.ボランティア活動など地域社会の活動を組織したり参加したりすること、3.正社員をもっと雇うように経営側に働きかけること、4.これから働き始 める若者に働くことの辛さと素晴らしさを伝えること、5.労働組合員を増やすことの5点をあげておきたい。
社会の仕組みを決めるのは政治である。国 会の議決によって法律が決まり、地方議会によって条例が制定される。公正公平な社会運営のためには、働く者の声を何らかの形で政治に反映する必要がある。 組合員の思想信条の自由は尊重しながらも、政治に一定の影響力を持つことが重要である。ただ、気をつけなければならないのは、自分たちの既得権益を守るた めの活動であってはならない点である。社会全体にとって何が最適かを考えながら行動すれば、労働組合に参加していない人たちの賛同も得られやすくなる。自 分たちさえよければいいという態度を捨てて政治活動に取り組まなければならない。
政治と同時に大切にしなければならないのは、地域での活動であ る。労働組合は、昔からボランティア活動や地域社会の活動に熱心に取り組んできた。ボランティア活動は、それほど大げさなものではなく、「ちょっと手伝 う」という感覚で取り組むとよい。地域住民とともに、できることから少しずつ変えていければ労組の社会的な存在感が出てくる。足下からよくしていくことが USR実践の近道である。
わが国の企業の社会的責任(CSR)の中には「雇用責任」という考え方が入っている。従業員を人として尊重し、能力開 発などに力を入れることもCSRの一部である。これは、アメリカにはなく、ヨーロッパにはある考え方だと言われている。既存の従業員に対する雇用責任はも ちろん重要だが、私は、新たに人を雇い入れることもCSRの大事な要素だと考える。新規学卒者や未経験者を正社員として雇い、企業内でのOJTを通して一 人前の職業人に育て上げていくのは、コストと時間と手間がかかるめんどうな事業である。しかし、日本社会の長期にわたる繁栄を実現するには、高い能力を発 揮できる人材が日本社会の至るところで再生産されなければならない。
バブル崩壊後の不況の中で、企業は正社員の雇用を増やさず、パート、派遣、請 負といった非正規雇用労働者を多数雇用することで対処してきた。しかし、今のままの仕事分担があと3年も続くと、自社の競争力を支えている技能・技術・ノ ウハウが社内で継承されず、重大な競争力不足に陥るのではないかという懸念は多くの従業員が共有するところである。この状態を看過してはいけない。現場の ことを最も良く知っている労働組合が声をあげなければ、手遅れになる可能性がある。若年層を正社員として雇い、技能・技術・ノウハウの継承に取り組むよう 経営側に働きかけることも、労働組合の社会的責任の一つである。
USRの4つ目は、このNPO人財育成ネットワーク推進機構がお手伝いできる分 野である。本NPOの設立趣旨にもあるように、若者の職業観が弱くなっている。せっかく入った会社をすぐ辞めてしまう人も依然として多い。このままでは、 日本社会を支えるインフラである社会保険が成り立たなくなってしまう。これから働き始める若者に対して、「オレたちは、こんな思いで仕事をしている。仕事 をしていると、こんな辛いこともあるけど、こんなにすばらしい体験もできる。困難を乗り越えた先にこそ喜びはある。一緒に頑張ろうじゃないか。」こんな会 話がNPOの場で交わされることを期待している。
5つ目のUSRは、組合員を増やすことである。労働組合の勢力を拡大するためではなく、企業や社 会の中で発言するルートを持たない人たちを減らしていくことが目的である。労使関係分野のこれまでの研究を見ると、経営者と従業員が話し合う場を持ってい る企業の方が外的なショックに強く、市場での競争力も高い。もちろん、労働組合がなくても労使の話し合いの場を作ることは可能だが、労働組合という組織形 態をとっていた方が法律上の保護もあって労使双方にメリットが多い。より質の高い企業経営を実現する上で、労組の果たしている役割は決して小さくないので ある。
労働組合に入ることは、社会の中での発言ルートを持つことにつながる。産別やナショナルセンターは政治的に一定の影響力を持っているし、労 組活動を通して地域社会との結びつきを強めることも可能である。個人ではできないことが、労働組合という組織を通すことによってできるようになる。これが 個人の疎外感を軽減し、より住みやすい社会の実現につながっていくと考える。
土 18 9月 2010
Posted by IFHD理事長 藤村 博之 under 藤村博之のエッセイ
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組合員の能力開発を支援すること = 「攻めの雇用保障」の実践
景気低迷の中で、労働者は強い雇用不安を抱えている。「今 はいいけれど、5年後にどうなるかわからない」という不安は常につきまとう。私は、組合員にとって最大の雇用保障は、社会的に通用する能力を身につけるこ とだと考えている。いま勤めている企業内、あるいは企業グループ内で雇用が守れないとしても、他社に移って十分に通用する能力を組合員が持っていれば、広 い意味での雇用保障になる。私は、これを「攻めの雇用保障」と呼んでいる。
このように書くと、公的資格の取得援助が労組の役割だと誤解する人が いるかもしれない。資格取得を援助することにはそれなりの意味があるが、それだけで事足れりとするのは誤りである。資格をたくさん持っていても、組織の中 で力を発揮できない人を採用する企業はない。資格は、経験に裏打ちされて初めて価値が出てくる。
どのような人が採用されるのかは、中途採用の面接 の際に企業側が何に注目しているかを見れば明らかである。中途採用に応募してきた人に面接するとき、企業の人事担当者は次のような質問をする。ア)これまで にどのような会社で働いてきたか、イ)それぞれの会社で具体的にどのような仕事をしてきたか、ウ)最近携わったプロジェクトでどのような役割を果たしていた か、エ)そのプロジェクトはどういう点で成功し、どういう点では成功しなかったか、オ)そのプロジェクトを担当することによって、自分自身の職業能力形成にど のような効果があったか。面接時間のほとんどは、これまで経験してきた仕事に関する質問に向けられる。担当したプロジェクトのことを質問するのは、具体的 な事例の中でしか応募者の能力水準を知ることができないからである。
中途採用の面接で聞かれることを見ていると、他社でも通用する能力を高める ためには、いま担当している仕事をしっかりやることが何にもまして大切であることがわかる。価値の高い仕事に挑戦していくことが、最大の能力開発である。 この分野で労働組合ができることは2つある。一つは、職場の管理職が適切な部下育成をするよう経営側に働きかけることである。具体的には、職場上長の仕事 配分のしかたや部下指導の方法をチェックし、不備があれば厳しく是正を求める。ただ、その際、職場上長だけを責めることになってはならない。職場上長も、 直属の上司との間で合意した課題や目標を達成するために忙しく働いている。部下育成の重要性はわかっていても、目先の仕事に追われて手が回らないのが実情 である。労組として経営側に要求すべきは、職場上長が余裕を持って働けるような経営施策である。職場上長も、ついこの前までは組合員だった。元の仲間を一 方的に責めても何の解決にもならない。
労組ができるもうひとつの取り組みは、組合員のキャリア形成を支援することである。キャリア形成とは、 「売れる能力を持ち続けること」である。自分の強みと弱みを整理し、企業の労働需要を予測しながら、どの分野の能力を高めていくことが最も得策かを計画し て実行する。20歳代や30歳代の従業員だけでなく、50歳代になってもこの視点は重要である。「売れる能力」が何なのかを一人で考えるのは難しい。そこ で、労働組合の出番である。組合員の相談にのり、組合員と一緒になって、売れる能力の維持向上を実践していくのである。
土 18 9月 2010
Posted by IFHD理事長 藤村 博之 under 藤村博之のエッセイ
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コーポレートガバナンスの一翼を担うこと
CSR(Corporate Social Responsibility;企業の社会的責任)という言葉をよく聞く。ある社会の中で企業活動を続けて行くには、その社会が持っている規範を守らなけ ればならない。規範には、法律だけではなく、社会的な習慣や伝統も含まれる。法律を犯していなければいいという姿勢では、社会の中で尊敬される企業になる ことはできない。法律を守っていればいいという後ろ向きの対応ではなく、積極的に社会の発展に貢献することが企業に求められている。
CSRが大 切だと言いながら、経営者は、目先の利益をあげるために、法律違反をしたり、社会規範に反するような業務命令を出したりすることが時としてある。あるい は、担当者の無知のために、その社会が持っている価値観に反するような行動をとることも起こりえる。社会規範に沿った企業活動をしているか否かをチェック できるのは、現場の第一線で働いている人たちである。「こんなことをしていいんだろうか?」とか「これって、法律違反じゃないのか?」という疑問を持った ときに、「おかしいぞ!」と声をあげられる雰囲気があれば、不祥事は未然に防止され、より質の高い経営を実現することが可能になる。
従業員が 「おかしい」と感じたときに「おかしい」と言える企業風土を作っていく上で、労働組合は重要な役割を果たすことができる。「さすがは○○社、しっかりして いる」と尊敬をもって語られるような企業になれば、組合員の雇用を守ることも労働条件の維持向上も可能になる。現場の視点で経営の質を高めていくことは、 もともと労組が活動の柱としてきた部分に深く関わっているのである。
この活動を繰り広げていくには、労組役員と一般組合員の間に信頼関係が築か れていることが必要条件となる。「どんなことでも組合役員に相談できる」、「組合役員に相談すれば何とかしてくれる」という雰囲気が組合内部にあることに よって、現場第一線のナマの情報が執行部に集まってくる。
このような雰囲気を作るには、役員が現場に行って組合員と直接対話するのがいちばんであ る。最近の組合役員の中には、パソコンと仕事をしている人が多い。一日中、パソコンに向かって「お知らせ」を作成し、e-メールで送付している。e-メー ルは便利な情報伝達手段だが、e-メールだけに頼っていたら、本当に必要な情報は伝わらない。時間がかかって面倒だとは思うが、職場に行って組合員の顔を 見て話をすることに優る情報収集・伝達の方法はない。
コーポレートガバナンスは、経営者の行動をチェックすることである。そのために、財務諸表 を読む勉強をしたり、経営戦略について学んだりすることも有効だろう。しかし、それだけで経営側と対等に話し合うのは不可能に近い。経営者たちは、その道 30年のプロである。組合役員になってあわてて勉強しても、所詮勝てるはずがない。最近の組合役員は、経営側が作った土俵にのこのこ上がっていって相撲を 取っているように見える。横綱相手に幕下の力士が相撲を取るようなもので、勝負ははじめからついている。
労働組合の土俵は「現場」である。現場 で何が起こっているのか、従業員はホンネのところで何を考えているのかを知り、経営側が提示する経営政策について素朴だが鋭い質問を重ねていく。経営側に 現場という土俵まで降りてもらって相撲を取れば、対等かそれ以上の取組が期待できる。現場を大切にすることが、労組活動の第一歩であることを忘れてはなら ない。
水 15 9月 2010
Posted by IFHD理事長 藤村 博之 under 藤村博之のエッセイ
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労働組合は社会の財産
第二次大戦後に再出発したわが国の労働組合運動は、60年余の歴史を重ねてきた。この間、それぞれの労組は、多くの問題に 直面し、乗り越えてきた。企業別の組織であるがゆえに、所属する企業の業績に翻弄される場面があったし、労組内のイデオロギー対立や運動方針の違いによっ て、激論が戦わされた時期もあった。1980年代になると、「労働条件の維持向上」と「雇用保障」という労働組合活動の二本柱に、「組合員へのサービス提 供」が加わり、活動の幅を広げた。しかし、労働組合組織率は、1975年以降年々低下し、20%を切る水準になった。2009年に少しだけ上昇したとは言 え、長期低落傾向に歯止めがかかったとは断言できない。労働組合が持つ社会的な影響力は相当小さくなっているように見える。
20世紀から21世 紀になる頃、ある新聞社が「21世紀になるとなくなるもの」という特集をした。その中に、労働組合が入っていた。確かに、組織率の低下を見ると、労働組合 は衰退の一途をたどっているように見える。社会の中だけでなく、企業の中でも、労組の存在感は希薄になりつつある。労働組合は、このまま、座して死を待て ばいいのだろうか。
私は、労働組合は日本社会の貴重な財産だと考えている。組織率が下がったとはいえ、いまだに1000万人が労働組合員であ る。社会的な影響力も決して小さくない。日本社会をもっと住みやすい社会にするという使命を負っているからこそ、法律は労組に対して様々な権利の保護を規 定している。労働組合を財産だと考えれば、それをどう守り育てていくのかという視点が生まれる。健全な社会を作っていくために重要な役割を期待されている 点に労組役員は立ち返る必要がある。
新しい三本の柱
労働組合は、労働条件の維持向上、雇用保障、そして組合員へのサービス提供を三本の 柱として活動を展開してきた。この重要性は、今も変わっていない。しかし、労組を取り巻く環境が大きく変わった現在、労組が取り組むべき活動の見せ方を少 し変える必要があると考える。そこで、提案したいのが「新しい三本の柱」である。①コーポレートガバナンスの一翼を担うこと、②組合員の能力開発 を支援すること、③住みやすい社会をつくるためにUSR(Union Social Responsibility)活動に取り組むことである。
労働組合は、様々な可能性を持った組織である。日本社会の財産であるという自覚を持ち、より住みやすい社会にするという使命を帯びていることを肝に銘じていただきたい。労働組合の一層の活躍を期待するところである。